楽器選択で最も重視する点はなんですか?
「相性ですね。一番重視するのは相性。ぱっと弾いたときに好きだと思える点があること。たとえ健康面が多少悪かったり、ちょっと傷があるとか、何か第三者的に見て問題があったとしても、大事なのは自分にとってオンリーワンの楽器になり得るということなので、長く付き合っていくには、そういう楽器を選んだ方が良いと思いますね。」
それはすぐわかるものですか?
「すぐわかりますね。逆に言えば、すぐわかったことを忘れないうちに、その感覚を自分で認識した方が良いと思いますね。」
演奏される方は楽器を音で選ぶことが多いと思いますが、楽器の見た目の芸術性についてお考えはありますか?
「楽器の芸術性には2つの意味があって、ひとつは見た目の芸術的な部分、もうひとつはその楽器を弾いたときの芸術的な特徴があると思います。この二つはまったく違うように見えて、私は同じものだと思っています。
というのは、人間でも30歳を過ぎたら内面が顔に出ると言われているように、楽器もぱっと見たときにその楽器の持っている気品だとか、エネルギーだとか、美しさが必ず音に反映されていると思います。だから、楽器を見て、美しいなとか、しっかりしているな、品があるな、と感じた場合、ほとんど間違いなくそれが音に出ていますね。」
楽器は限られた選択肢から選ばざるを得ないものですが、良い選択をするために何を心掛けると良いと思いますか?
「それは信頼関係ですね。茶木さんと長年お付き合いしてきたということは、そこに信頼関係があったということなんですね。
その他の色々な多くの楽器商の方とお話したりすることもあったけれど、(楽器商は)要するにお見合いおじさんをやってくれるわけですから(笑)、1対1の人間としての信頼関係が生まれていれば、この人にはこういう楽器が合うんじゃないか、ということを見抜いて、そのような楽器がぱっと現れたときに、それぞれのヴァイオリニストの顔を浮かべると思うんですね。その部分が私は一番大切だと思うんです。
そこで信頼関係がなかったり、あるいは非常に希薄なものだったりすると、間違った出会いを重ねることになって、それは決してプラスなことではないと思います。」
弊社とのお付き合いはいつから?
「中学生くらいのときからなので、本当に長いお付き合いです。きっかけとしては、コンクールを受けるので必死に楽器を探していた時期に茶木さんに出会ったんですね。」
誰しも最初にいきなり最高の名器を手に入れることはあまりなく、楽器を持ち替えていくことがほとんどですが、上手な楽器の持ち替え方というのはあるものでしょうか?
「あまり意識する必要はないと思います。出会いによってひとつの楽器を弾くようになったとき、もう、これ以上良い楽器はないと思っていいと思うんですね。
そうして弾いていくうちに、非常に悲しいことに、その楽器の底が見えてしまうことがある。『もうこの楽器とはここまでなんじゃないかな』という限界が見えてしまったときに、不思議にその次の楽器が現れるものなんですね。
初めから『この楽器はどうせつなぎだから』という風に思うと、楽器に対する愛情も湧かないし、楽器をうまく鳴らすこともできなくなってしまうので、楽器とのつながりが非常に中途半端なものとなってしまいます。ですから、出会いを最高のものにするということだけに集中した方が良いと思いますね。」
例えばStradivari(1644-1737, Cremona)など良質な楽器を知ってしまった人が、予算的制約からそれには及ばない楽器から選ばざるを得ない場合、満足できないことはありませんか?
「ありますけど、それでも『Stradivariのあの音が良かった』という、自分(の印象)に残っている部分がありますよね。その部分を追い求めることは可能だと思うんです。
例えばある楽器を弾いてみたときに、例えば『このA線の音色はあの自分の幻の音と同じだ』と思う場合が結構あって、そういう部分でなるべく惚れていく。もちろんそこでお金があれば(やっぱり)Stradivariが、っていうことになるんだけど(笑)。そういう風に考えた方が良いと思いますね。」
自分の理想の音をイメージしながら…?
「そうそう、『これが欲しいんだ』という、何かひとつ自分の求めたい音があるならば、その音を求めていく、ということですね。」