【連載】バイオリン商 デビッド・ローリーの回想録 第9話

2010.04.26

前回までのお話はこちら

The Reminiscences of a Fiddle Dealer by David Laurie #9

【難しい鑑定 よもやま】-2

この件に関して、7~8年前にあった出来事をもう1つ書こう。

ある日、パリ随一の楽器商を訪れたときのことだ。私が店に入っていくと、すれちがいざまに、1人の紳士が出ていった。店員は私に、テーブルの上に置かれた1本のビオラを見せながらこう言った。「今の紳士に、この楽器がアマティ派のイタリア名器として売れたところだ」店員は私が同調するものと思っていた様子だったが、私は「いえ、これは英国製ですよ」とありのままに言った。

「英国製ですって?そんなバカなことがあるものですか」彼は信じられないといった口ぶりで言った。そこで私は英国製であることの証拠や、それがビオラ作りとして有名な、シュルスベリのバンクスという人の作品であること等を述べた。店員達は私の言ったその名前さえも知らないというので、紙に書いて渡すと、店員の1人がさっそく引き出しからハート・アンド・サンの名簿を出してきた。そこで私は、ついでにさらにたくさんの英国人のメーカーの名前をずらりと書き出した。

さて、彼らは自らの非を認めるかっこうとなり、善後策を私に相談してきた。そこで、客の泊まっているグランドホテルまで送ることになっていたビオラだったが、事情を良く説明した釈明書を書くことにしたらどうかと勧めた。内容はこうである。

「私たちがビオラをあなたに売った後に、さる信頼のおける英国の大楽器商が訪ねてきて、たまたま目に留まったビオラを見て、『これは英国の製作家バンクスの手によるものだ』とおっしゃった。故に、私たちは道義上、この売買契約は破棄されたものと考え、返金を申し出たい」との申し入れだった。しかしこの紳士はこの申し出を断って、彼等の公正な態度に感謝しつつ、そのビオラを購入したとのことである。

*****

1860年代の初期、私がちょうど海外旅行を始めた頃だが、イタリアの名器の売買には大きなかげりが見え始めていた。これは18世紀末から1840年頃まで続いた好景気の反動によるものだ。その頃、バイオリン界でも何人かの著名な演奏家が亡くなったが、その中にはパガニーニもいて、アマチュア音楽家たちをがっかりさせたものだ。しかし最大の原因は、偉大なコレクターが存在しなくなってから、長い間、それに代わる人物が現れなかったことだろう。それに気付いたのはずっと後のことだったが…。ともあれ、私の初期の輸入計画が始まったのもそのような時期であった。

(つづく)

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