【連載】バイオリン商 デビッド・ローリーの回想録 第6話

2010.03.08

前回までのお話はこちら

The Reminiscences of a Fiddle Dealer by David Laurie #6

【ビヨーム氏のチェロ】-1

N.F.ビヨーム氏はその頃イタリア製と思える古いチェロを持っていた。

そのチェロには金言や紋章などがあちこちに描かれていた。これらの模様は、フランスのシャルル9世の礼拝堂から抜粋されたもので、ビヨーム氏自身は、このチェロがアマティ派の誰かの手で、特注で作られたものだと考えていたようであった。彼がこのチェロを入手した時は破損がひどかったらしいが、辛抱強く破片を探し出すなどして復元をした。楽器の破損部は何百にものぼるのだが、あまりにも見事に復元されたので、一見しただけではプロの人間にさえも健康状態が良いものに見えるほどだった。これはまさに愛情の労作とでも言おうか。彼はこのチェロは本来「ロンドン塔」にこそ保存されるべきだと信じていたふしがある。それを聞いた彼の兄たちはただ笑っていたものだ。

vuillaume

当時ビヨーム氏は部屋数の多い大きな屋敷に居を構えていて、彼の妹に家事一切を任せていた。2階は間貸ししていて、その頃に住んでいたのは、チェロを弾く愉快な紳士であった。この人の演奏はずばぬけて素晴らしかったので、私は常々プロの芸術家ではないかと思っていた。ある時、ビヨーム氏に聞いてみると、「単なるアマチュアだけど、知り合いになりたいのなら紹介してあげようか」と言う。「近づきになれれば嬉しいですな。」

そこで我々はさっそく彼の部屋を訪ねることにした。彼はジャンセン氏と言って、年は60歳から70歳ほどだろうか、背が高くて胸巾の広い、典型的なフランドル人であった。彼は音楽に埋没したような生活を送っている様子だった。ビヨーム氏が兄のJ.B.ビヨーム氏をパリに訪ねるときなども、いつも一緒に旅行していたようだった。

(つづく)

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