The Reminiscences of a Fiddle Dealer by David Laurie #3
【イタリアンの音】-2
今から思うとはずかしいのだが、時間さえかければ、すばらしい音のバイオリンが見つかるだろうと思って、デル・ジェスの音を持ったバイオリンを探し出す決意をしたのである。
当時の私は楽器に関しては全くズブの素人で、楽器についている製作者の名前にしても、「ラベルがついていると楽器が高い値で評価される」などと考えるほどに知識は皆無だった。にもかかわらず、ではなく、だからこそ、何とかしてあの音色をもつバイオリンを手にしたいと決心することが出来たのだろう。
それ以来、どんな面倒もいとわずにバイオリンを探し求めた。私の道楽はすべての友人たちにも知れ渡っていた。やがて私の師の耳に入り、彼は自分の手の届く限り最高のバイオリンをプレゼントしようとしてくれた。彼はグラスゴー近郊の楽器修理製作家ジョン・イーディ師に頼みに行ったが、すぐには在庫が無かった。
ある晩、イーディ氏は市内の一紳士のお宅へ私を案内した。その紳士というのが、相当な規模の楽器・絵画のコレクターであった。この人こそかの有名なジョン・キング・クラーク氏であったのだ。クラーク氏とは知己がやがては友情となり、終生続いた。この頃彼はスコットランドでトップクラスのバイオリン鑑定家と認められていたが、コレクションの量から見てもそれは充分評価に値すると思われた。イーディ氏は私の事情を詳しく説明して、楽器を探し出すしばらくの間、バイオリンを1丁貸してやれないものかと相談をもちかけた。彼はいとも簡単に承諾して、大きな部屋に我々を案内した。そこにはソファやテーブル、椅子の上まで一面にバイオリンが置いてあった。しかもこの部屋だけでは収めきれないらしく、彼は隣室へ行っては、バイオリンを持って戻ってきた。1本1本の名前と、音の違いを説明してくれるのだが、あまりにも楽器の数が多くて、私の頭はすっかり混乱してしまった。
ソファに座り込んで、イーディ氏にたずねた。
「クレモナの名器はいったいどれですか」
「1本もないよ」
後で分かったことだが、イーディ氏はクレモナの楽器というものを見たことがなかったらしい。そうこうしている間に、私の目は今まで気付かなかったバイオリンに釘付けになってしまった。そのバイオリンは、部屋の片隅に背を向けて立てかけられていた。
(つづく)
